子どものテスト答案を見ていて「前は書けていたのに、もう忘れてしまったのかな?」「ちゃんとわかっているのかな?」と悩んでしまうことはないでしょうか。
テストでよい点数を取るためには、暗記が不可欠です。
しかし単純に暗記をしただけでは点数の伸びにつながりません。
テスト直前に勉強をすれば確かに暗記はできますが、それで点数が取れるのは単元別の小テストが限界でしょう。
学年が上がるにつれ学習量は増加しますので、早いうちに記憶力を高めておきたいですね。
暗記力や記憶力は普段の生活の中で鍛えられます。
今回は小学生の記憶力・暗記力アップの方法、記憶を長く定着させる方法を紹介します。
このページの要点をざっくりいうと
記憶力を高めることで成績が上がるだけでなく、学習スピードが上がり、将来希望する職業に就ける、人から信頼を得られるなどのメリットがあります。
記憶力を高めるには、暗記したことを長く脳に残るようにしなくてはいけません。
そのためには記憶した事を間をおいて何回も思い出す訓練をすること、満足感を味わわせること、規則正しい生活を送ることが大切です。
子どもと一緒に楽しみながら記憶力の訓練をしていくことを心がけましょう。
記憶力と暗記力の違いとは?能力を高めるために必要な考え方
「記憶力」と「暗記力」は同じもののように思えますが異なるものです。
「暗記」とは新しい物事を覚えることで、「記憶」は覚えたことを忘れないようにすることです。
脳の記憶には「短期記憶」と「長期記憶」の2種類があります。
富山大学で学術研究部、医学部、薬学部などの教授を歴任し、脳神経に関する様々な著書を発行している井ノ口 馨教授は記憶について以下のように述べています。
例えば言葉で人に伝えることができるような記憶(エピソード記憶、陳述記憶などの、記憶といえば私たちが想定する記憶)は、最初は脳の海馬に蓄えられる。
経験や学習に伴い記憶が獲得され、その記憶が海馬に固定化され保持されて長期記憶となる。
まず感覚器官を通し脳に入ってきた事柄は「短期記憶」として脳の海馬に蓄積されます。
短期記憶は容量が限られていますので、満杯になると古いものから忘れていきます。
短期記憶の中でも重要だと判断されたものは「長期記憶」として脳に保存されます。
つまり脳科学用語での「短期記憶」が暗記、「長期記憶」が記憶に分類されます。
長期記憶には容量がないとされています。
長期記憶は保持時間が長く、数分から一生にわたって保持される記憶である。
短期記憶とは異なり、容量の大きさに制限はないことが特徴とされる。
つまり記憶力を高めるには、短期記憶を長期記憶にすることがカギということです。
記憶力を高めると将来有望になる3つの理由
記憶力を高めることで、テストの点数が伸びる以外にもたくさんの利点・能力を得ることができ、将来に役立てることができます。
理由としては以下の3つが挙げられます。
学習スピードが速くなる
記憶が脳に定着していればすでに覚えたものはもう暗記しなくてよいため、その分時間と労力を削れます。
子どもが勉強につまずいている時や意欲が上がらない時というのは、単語・用語の意味が分かっていないことが原因である事が多いです。
単元をスタートする前の段階で理解ができていないということです。
その場合はまずはその単語を記憶することから始めなくてはいけないため、どうしても時間がかかります。
しかし記憶力が高い人は過去に学習したことを多く覚えていますので、そのような事がありません。
何についての学習なのか、何を問われているかを最初から理解できれば、早いスピードで学習を進めることができます。
このことは学年が上がるにつれ差が大きくなる傾向があります。
特に中学校での英語、数学などは小学校~中学1年のころの知識が土台になるため、記憶力の良し悪しによる個人差が非常に表れやすいです。
望んだ仕事に就ける
記憶力が鍛えられると、多くのことを覚えられますので成績が上がります。
社会などの暗記科目だけでなく、他の科目でも記憶力が高い生徒がよい成績を修めていることが調査で分かっています。
京大NX知能検査の下位テストである「日常記憶」の得点が高い者は低い者に比べて、国語、社会、算数、理科の4教科すべての成績がよく、記憶力が学業成績の重要な規定因であることを示した。
成績がよければ勉強に前向きに取り組むことができるため、視野がどんどん広がり、好きな分野を学習したいという探求心を育めます。
高い点数が取れていれば当然ながら大学にも進学ができます。
厚生労働省平成28年賃金構造基本統計調査では、学歴が高いほうが年齢を問わず賃金が高いという調査結果も出ていますので、収入面を基準に考えると大学の進学は将来に有利です。
学歴別に賃金をみると、男性では、大学・大学院卒が399.7千円(前年比0.7%減)、高専・ 短大卒が306.3千円(同0.8%減)、高校卒が288.1千円(同0.0%)となっている。
一方、女性では、大学・大学院卒が288.7千円(同0.3%増)、高専・短大卒が255.6千円(同1.2%増)、 高校卒が208.3千円(同0.3%増)となっている。
点数が高ければ、自分の就きたい職業について学べる大学が選べるため、将来的に自分の希望する仕事に就きやすくなります。
信頼が得られる
記憶力を鍛えておくと、大切な約束や重要なことを忘れにくくなります。
大切なことを相手に何度も確認する機会が減りますので、相手を不快にすることが少なくなります。
相手の事を覚えておくということは、よいコミュニケーションを築く上で重要なことです。
会ったことがある人に自分のことを忘れられていたり、話したはずの事を「そんなこと言った?」と言われたりすると、誰でも不快になるはずです。
記憶力を鍛えておけば相手の事を記憶できますので、他人にそのような思いをさせることが減ります。
これは社会に出た後でも大きな武器となります。
仕事での上司、もしくは取引相手等が話したこと、教えたことを忘れずに覚えていれば、相手から信頼を得やすくなります。
些細な記憶の積み重ねが相手との信頼を築く上で非常に重要ですので、記憶力を鍛えておくことが大切なのです。
暗記力を高めて記憶力を鍛える3つの方法
記憶力を高めるためには、単純に物事を反復して覚えればいいという訳ではありません。
植草学園大学発達教育学部の安藤則夫教授、長谷川修治教授は、物事を記憶するには反復と楽しさ、安定した情緒、想起(思い出すこと)が重要であると述べています。
上記の論文も参照した上で、記憶力を鍛える方法3つについて、具体的に解説をしていきます。
親子で小テストをする
記憶力を高めるために大切なことは、一度暗記したことを間隔を置いて思い出すことです。
想起の仕方については、記憶すべき項目を勉強した後ですぐに思い出すよりも、少し後に思い出した方が記憶の定着はすぐれている。
また、間違えずに思い出せるくらいの簡単な項目を思い出すよりは、間違うくらいの難しい項目を思い出すようにした方が記憶は定着する。
まずは同じ単語を反復して暗記させ、その後にテスト形式で思い出してもらいます。
「覚えたことを思い出す」という行為が重要ですので、最初から完璧に覚えられなくても構いませんし、意味自体が合っていれば違う表現でも問題ありません。
脳の中では単語を思い出す時、元々頭の中にあった知識と関連付けをして再構成を行っています。
それを繰り返すことで単語が脳の知識と絡み、長期記憶として定着していきます。
親子で問題を出す側と答える側を交互にやると、さらに記憶として定着しやすくなります。
一緒に楽しむ
効果的な記憶のためには、満足感も重要であると述べられています。
学習にとって重要なのは、くつろぎ性の情緒である。
学習内容が理解できて納得する時に、くつろぎ性の情緒によって納得した気分が作られ、学習内容の記憶の定着が促進されると考えられる。
「勉強は楽しい!」という気持ちは重要ですが、それだけでは楽しいという気持ちだけが強く印象に残ってしまいます。
効率的な記憶を行う上で重要なのはくつろぎ性の情緒、つまり「できた!嬉しい!」という満足感です。
前出の論文では、苦労を乗り越えた後の快感も重要であると述べられています。
「苦手な科目の問題ができるようになった!」という満足感が暗記の定着を促進します。
ただ小学校の子どもの場合、一人ではこの満足感を十分に得られることができません。
親が「がんばったね」「大変だったね」と共感することで、子どもは問題ができた達成感を味わうことができるのです。
規則正しい生活をする
規則正しい生活は子どもの成績に直結します。
十分な睡眠がとれていないと授業中や勉強中に眠くなるため、集中ができない上、情緒も不安定になります。
毎日起床時間と就寝時間を揃え、学習時間や遊ぶ時間などのルーティンを決めることで、安定した生活を送れるようになります。
刺激的な事柄は勉強の妨げになりますが、毎日が安定していれば勉強に集中するだけの心の余裕が生まれます。
先述の論文では、アメリカの同時多発テロ事件に関する記憶に関する実験についても述べられています。
人がストレスにさらされた時は、断片的な内容しか覚えられないということが調査で明らかになっています。
ニューヨークの学生が一番正確に伝聞記憶していた。
また、実体験記憶もよく覚えていた。
しかし、細部の記憶は明確ではなかった。
また、伝聞部分では、でっち上げの部分が見られた。
記憶力を高めるためには、安定した生活とゆとりのある情緒が不可欠なのです。
親子で楽しみながら記憶力を高める!
覚えたことを記憶として定着させるためには、記憶したことを何回も思い出す訓練をすること、記憶することを一緒に楽しんで満足感を味わわせること、そして規則正しい生活を送ることが大切です。
中学生くらいになれば自分で訓練をしたり、自分だけで満足感を味わうことができますが、小学生の頃は一人でこれらを行う事は難しいため、親の働きかけが不可欠です。
鍛えた記憶力は一生の宝になります。
子どもに学ぶことや覚えることが楽しいと思ってもらえるよう、できる範囲で親も一緒に記憶力アップに取り組みましょう。
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