「笑う門には福来る」ということわざは、聞いたことのある方が大半かと思います。
「笑いの絶えない人に家には自然と幸福が訪れる」という意味です。
人間関係において笑顔は大切ですが、家庭における笑顔も親子関係を築く上では非常に重要です。
親が笑顔で過ごしていれば子どもは安心し、安定した精神でのびのびと育つことができるからです。
笑顔で子どもに接しながら話をしたり、いろいろな事を楽しむことにより、信頼関係が育まれます。
親子の信頼関係は子どもの成績にも密接に関係していることが、文部科学省の成果報告書でも分かっています。
平成25年度の保護者調査の分析では,次のような家庭環境(保護者の行動や意識も含む)にあてはまる子どもの学力が高いという傾向を指摘した(中略)
「子どもか学校での出来事について話を聞いている」
「子どもと勉強や成績のことについて話をする」
「子どもと将来や進路についての話をする」
「子どもと友達のことについて話をする」
信頼関係が確立している子どもは親と様々な事を話しますので、将来のことを考える機会が多くなるとともに、成績が上がり自尊心が正しく育ちます。
今回は親子の信頼関係を築く上で不可欠な「笑顔」のメリットや子どもの発達との関係、そして子どもを笑顔にするために親ができることを解説します。
このページの要点をざっくりいうと
笑顔は子どもにとって精神が安定する、睡眠の質が向上する、粘り強くなる、免疫力が上がり健やかに過ごせる、人間関係が良好になるなど、様々なメリットがあります。
表情は親しい間柄で強く同調しますので、子どもが笑顔で過ごせるようになるために、まずは大人がストレスを貯めず笑顔で過ごせるようになることが大切です。
そして子どものありのままを受け入れ、安心できる場所を作ってあげることで、子どもは自然に笑うことができます。
笑顔が子どもの発達に与える5つのメリット
笑顔でいることにより、子どもに具体的にどのような影響があるのでしょう。
笑顔が子どもの発達に与えるメリットとして挙げられるのは以下の5点です。
精神的に安定する
笑顔は心に対し安心する効果をもたらすことが分かっています。
学生を対象にお笑いのDVDを鑑賞させる実験を行ったところ、副交感神経が優位になりリラックスする効果が得られたという研究結果が報告されています。
笑い刺激によって自発笑いが喚起され感情が表出されることで、交感神経系の反応性が亢進し、その後、回復期において交感神経の低下(もしくは副交感神経の亢進)が認められ、リラックス傾向が生じたと考えられる。
また、POMSの結果から心理状態においても自発的な笑いによりネガティブな感情が低下するともにポジティブな感情が増加する効果が認められた。
これらのことは、笑いにおける心身へのリラックス効果があり、健康へのポジティブな影響を示唆している。
人間の自律神経には交感神経と副交感神経がありますが、ストレスを感じ続けると交感神経が優位になり、イライラしたり眠りにくくなったりします。
笑いによって副交感神経が優位になると、交感神経の働きが弱まるため、イライラが解消されてリラックスでき、精神的に安定した状態になります。
睡眠の質が上がる
ストレスによって優位になる交感神経には人を興奮させ、血圧を上げたり心拍数を増加させたりする働きがあります。
しかし笑いによって副交感神経が交感神経より優位に働くと、心拍数が遅くなると共に血圧が下がり、脳の興奮も静まってリラックスし眠くなります。
つまり寝る前に笑うことによって心や体の緊張がほぐれ、寝つきがよくなり、質のよい睡眠をとることができます。
「寝る子は育つ」ということわざがある通り、子どもは寝ている間に脳から成長ホルモンを分泌させており、このホルモンは脳や骨、筋肉の成長に欠かせないものです。
また子どもの睡眠時間が不足すると、肥満や生活習慣病、うつ病などの発症率が高くなるということも分かっています。
小児の睡眠不足や睡眠障害が持続すると、肥満や生活習慣病(糖尿病・高血圧)、うつ病などの発症率を高めたり症状を増悪させたりする危険性があります。
適切に対処していくには「早起き・早寝」という基本的な生活習慣から見直すことが必要です。
笑いによって良い睡眠をとることにより、脳や身体の発育がスムーズになるだけでなく、将来の病気を予防することもできます。
粘り強くなる
「ランナーズハイ」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
マラソンなどで長時間走り続けると気分が高揚する作用のことを言います。
ランナーズハイが起こる原因として、脳内の神経伝達物質の一つであるエンドルフィンが分泌されることが挙げられています。
エンドルフィンは人間に幸福感をもたらす作用があり、その役割から脳内麻薬と呼ばれることもあります。
マラソンのような有酸素運動のほか、辛い物を食べたり、好きなものを好きなだけ食べたり、笑ったりした時に多く分泌されます。
つまり笑うと人間の心が幸せになるということが言えます。
心が満足していれば精神的にも安定しますので、物事がうまくいかなくても些細なことでは諦めなくなります。
イライラもしにくくなるため、失敗しても落ち着いて様々な方法を考えることができ、一つのことについて粘り強く取り組めるようになります。
免疫力が上がる
人間の体内にはナチュラルキラー細胞(NK細胞)というものがあります。
体内のリンパ球の10%~30%を占めていて、ウイルスに感染した細胞やがん細胞を排除する役目をしています。
人は笑うことにより、このナチュラルキラー細胞を活性化させることができます。
実際に落語家を招いて行った調査においても、笑い体験をした7割近くの人がNK細胞が上昇したという結果が出ています。
笑いの体験の前後で測ったNK活性の結果は、27名中18名(67%)に笑い体験後にNK活性の上昇を示した。
また、笑いの体験後に低下した9名中7名は、笑い体験前の値がもともとNK活性の標準値(35〜55%)を越える値を示し、もともとNK活性が標準値以下で、笑い体験後にNK活性が低下したものは2名のみであった。
笑うことでナチュラルキラー細胞を増やすことができれば、ウイスル性疾患にかかりにくくなる効果も期待できます。
人間関係が良好になる
笑っている人を見て自然と顔がほころんだり、つられて笑ったりしたことはありませんか?
人には表情同調というものがあり、表情を写真や動画で見ただけで顔の筋肉が同じように活動をしようとします。
この表情同調は、相手が親しい間柄であるほど強くなることが研究で明らかになっています。
人と人との友好関係によって,表情同調はダイナミックに変化する。
例えば,二者間で協力課題を行っているときや,自分と同じスポーツ好きな者といった内集団に属する相手に対しては,表情同調は増加する。
家族が笑っていれば子どもも自然に笑顔になります。
そして子どもが笑顔であれば、周りの人も同調して笑顔になり、よい人間関係が築けるようになります。
大人同士の人間関係においても、怒った顔をしている人よりも笑顔の人のほうに自然と人が集まるものです。
笑顔は人間関係を良好にする最大の武器であると言えます。
子どもの笑顔のために親ができること
子どもを笑顔にするために、親として実際にできることは何なのでしょう?
普段の生活で心がけたいことを解説していきます。
自分自身が楽しむ
先の項目でも解説をしたとおり、表情は同調します。
近い間柄であればより同調が起こりやすいため、親が怒っていたり悲しい顔をしていたりすると、子どもの表情もそれに引きずられてしまいます。
子どもは大人が思っているよりも親の様子をよく見ていますし、無意識下で親から影響を受けています。
まずは親が笑顔でいることが大切です。
茨城キリスト大が幼児の母親に対して行った調査によると、自尊心が高い母親は子どもといることに対して積極的であるのに対し、自尊心が低い母親は子どもと関わることに対して好意的でないということが分かっています。
自尊感情の高い母親は、子どもとともにいることや活動することに対して積極的であり、自尊感情の低い者は、子どもとかかわることに対してあまり好意的でないことが認められた。
つまり「自尊心が低いと育児が辛い物に感じてしまう」ということが明らかになったのです。
育児とは子どもを育てることですが、子どものことを最優先して自分を労わっていないと「辛い」という気持ちに支配されてしまい、笑顔でいられなくなります。
辛いな、と感じた時は無理をせず、自分の好きなことをしてみたり、休んだりすることも大切です。
のびのびと過ごす親を見て、子どもものびのびと成長していくことでしょう。
ありのままを受け入れる
子どもの笑顔は、自分が受け入れられているという安心から出てくることが多いです。
脳科学者の茂木健一郎氏は、子どもが笑うためには親という「安全基地」の存在が必要であると述べています。
失敗したときに逃げ込める、あるいは欠点まで含めて自分をまるごと受けとめてくれる安全基地が必要です。
「ここなら安全」という場所があってこそ失敗を笑い飛ばすことができ、困難に立ち向かうときも「失敗したって、あそこに戻れば大丈夫」と、リスクをとることができるからです。そんな「子どもの安全基地」になれるのは、もちろん親です。(略)
ですから、わが子をよく笑う子に育てたいなら、お母さんは笑顔で見守り、子どもをいつでも、まるごと受けとめてあげることが大切なのです。
子どもは素直ですので、心が安定している時でないと自然に笑えません。
そのためには親が子の存在を一人の人間として尊重し、今のあなたで良いのだと受け入れてあげることです。
そうすることで自然に笑えるようになるだけでなく、様々なことに挑戦できる自主性や自尊心を伸ばすこともできます。
子どもの笑顔は人とのかかわりの中で生まれる
大人が一日に笑うのは15回程度であるのに対し、子どもは一日に400回笑うといわれています。
しかしこれは決して反射的に笑っているわけではありません。
生まれたばかりの赤ちゃんは「生理的微笑」という反射的な笑いをします。
その生理的微笑が消えるとともに、生後2か月以降から「社会的微笑」という、周囲との関わり合いに応じた笑顔をするようになります。
つまり子どもの笑顔は反射ではなく、社会的な関わりが不可欠なのです。
子どもが笑顔になることで精神が安定するだけでなく免疫力もアップし、人間関係も良好になっていきます。
子どもが笑顔になれるよう、親も笑顔で過ごすことを心がけていきたいですね。
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