子どもが感情を爆発させてキレている様を見るのは非常に辛いものです。
自分が思っていることや心の叫びを言葉にできず、ただキレるだけになってしまう子どもは多いです。
一体なぜ子どもはキレてしまうのでしょう。どのような心理状態で感情を爆発させるのでしょうか。
そして親はどのように対処していけばいいのでしょう。
子どもがキレた時には苛立ちから怒鳴ってしまったり、キレることをやめさせようとしたりするかもしれませんが、対処を間違えると逆にひどくなることもあります。
親の間違った対処法を通し、キレる子どもへのアプローチの仕方について考えていきましょう。
このページの要点をざっくりいうと
子どもがキレやすい原因は怒りを抑える大脳の前頭前野の発達が遅いことです。
前頭前野が成長するのは18歳までの期間ですので、子どもがキレることは自然なことです。
キレる理由はしつけへの反発などが挙げられますが、理由が分からないというケースも少なくありません。
頭ごなしに叱ったり怒鳴ったりせず、落ち着いて対話をすることで自尊心を育てることが重要。
キレることを問題視し過ぎず、穏やかに見守りましょう。
なぜキレる子どもに育つのか?
子どもがキレている様子を見て「小さい頃の接し方に問題があったのかも…」と自分を責める方は少なくないでしょう。
しかし実際の原因は子どもの脳の発育事情にあります。
大脳は「脳幹」「大脳辺縁系」「大脳新皮質」の3つに分かれており、脊髄に近い脳幹では生命維持に関する役目を、その次に近い大脳辺縁系では食欲や睡眠欲などの本能や感情に関する役目を司ります。
怒りの感情も大脳辺縁系で生まれるものです。
大脳新皮質は人間だけが発達している脳の外側の部位で理性や論理的思考などを司り、その中でも前頭前野部分は「キレる」という情動を抑える役目をしています。
しかし人間の脳は先に大脳辺縁系が成長し、大脳新皮質は脳の中では後に成長します。
人間ならではの機能がたくさん詰まった部分なので、私たちは、どうしても脳というとこの脳をイメージしがちです。
実際、この脳は特に小中学校での学習を中心として、大体18歳くらいまでの時間をかけて育ちます。
子どもは怒りを生むことができても、それを抑えるだけの脳が育っていないということです。
脳が未発達な子どもが怒りを我慢できる原理について、湖北短期大学の立花靖弘氏は、前頭前野部分が未発達な場合、怒りを司るシステムに自律分散効果があると述べています。
事前に情動・感情システムが、ある程度充足しているゆえに、情動・感情システム自体に、システム内部での自律分散ともいうべき代替力がある、と考えた方がより妥当性があるだろう。
つまり大人に比べて子どもの怒りの抑制は不安定ということです。
急に感情のコントロールができなくなってきたり、抑制がうまくいっていないという場合、子どもの心に大きな負担がかかっていることが予測できます。
キレる子どもの心理とは
子どもが親などの家族に対してキレる原因、心理は一体どうなっているのでしょうか。
内閣府が調査を行っている「子ども・若者白書」には家庭内暴力の件数や理由が記載されています。
引用元:内閣府「子ども・若者白書」
そのデータを元に、子どもがキレる心理を解説していきましょう。
しつけへの反発
「子ども・若者白書」は子ども・若者育成支援推進法に基づき2010年から毎年作成されていますが、それによると少年の家庭内暴力の件数は年々増加していることが分かっています。
暴力の対象は母親が多くを占めていますが、これはあくまでも警視庁への届け出を元に作成されたデータであるためです。
キレて物を壊したくらいでは警察に届け出をしない親が多いと思われますので、実際はかなり多くの方が家庭内での子どもの暴力に悩んでいることが推測されます。
家庭内暴力に発展した動機は「しつけなどへの反発」が毎年60%以上を占めています。
しつけは状況によって子どもの自尊心を傷つけることがあります。
例えば何か悪いことや失敗をしたときに他の人や兄弟の前で叱ると、子どもは失敗を晒されたと考え、自尊心が損なわれます。
家庭内なら大丈夫だろうと考えてしまいがちですが、子どもにとって兄弟は親友でもありライバルのようなものでもあります。
そのような些細な積み重ねが少しずつ子どもを傷つけていき、やがて自尊心を守るためにキレるようになります。
自分の希望が通らないことへの苛立ち
同調査(「子ども・若者白書」)によると、反発をした理由として「しつけなどに反発」の次に多いのが「物品の購入要求が受け入れられず」という理由です。
子どもは欲求が強いとそれを抑えることができず、怒りの感情を爆発させる以外に手段がなくなります。
また「理由もなく」「不明」の二つも、反発をした理由として挙げられています。
怒りを生み出す脳の大脳辺縁系は人間以外の動物も持っている原始的な部位ですので、怒りを抑える力が未発達の場合、理由も分からないまま怒りが爆発するという事も多いです。
キレる原因として一番多い「しつけなどへの反発」に関しては親の心がけで解決できると言えますが、キレる理由が分からないとその原因について対策ができません。
また「物品の購入要求が受け入れられず」という原因を回避したいからといって、ほしいものを何でも買ってあげるというのは難しいでしょう。
つまり原因を摘むのではなく、子どもの強い感情にどうやって向き合っていくのかが鍵となっていくのです。
キレる子どもに「やってはいけない」3つのこと
では子どもがキレた場合、どのように向かい合っていけばいいのでしょう。
ここでは親がやってはいけない3つの対処法を解説していきます。
怒鳴りつける
日常的に子どもを怒鳴っている場合、子どもも同じように怒鳴ることで感情を外に出そうとします。
子どもを叱らなくてはいけない場面でも、怒鳴るのはできるだけやめるようにしましょう。
「子は親の鏡」という言葉がある通り、子どもは親からさまざまな影響を受けて育ちます。
また人間同士の感情は伝染することが分かっており、その中でも怒りや不安などのネガティブな感情はより相手に伝播しやすい傾向があります。
ある研究ではストレスを感じている人を目にしただけで、26%の被験者がコルチゾールと呼ばれるストレスホルモンのレベルが高まったそうです。
更に難点なのが、伝わりやすいのはポジティブな感情よりもネガティブな感情ということであり、ネガティブな感情や不安感はより伝染する力が強いのです。
子どもがキレている時はつい怒鳴りたくなりますが、そういう時こそ平静を保つことが重要です。
子どもが怒鳴っている親を見てさらに怒る、という悪循環に陥る恐れがあるためです。
子どもを負かそうとする
親は子どもを育てるという立場のため仕方がないのですが、子どもより優位である事を意識した言葉を発することが多いです。
例えば「(あなたは)何度言ったら分かるのか」「(あなたは)○○してはいけない」というような「あなた」が主語になる声掛けは、相手を自分の意に従わせようという心理が働いています。
長崎大学教育学部の論文では「あなた」を主語にした言葉は対立関係を大きくしやすいという事が述べられています。
児童・生徒は、教師、親、同級生などから、あなたは○○すべき、あなたは間違っていると言われ続けている。しかし対極では、自己中心的、感情的、脆弱と言われながらも自尊感情が確実に向上しているのである。
そのため、「あなたメッセージ」と向上した自尊感情は、とくに感情的な対立関係を拡大しやすくなっている。
「あなたは~すべきだ」と押し付けをされると、自分を守りたいという気持ちが生まれ、それに反発をしたくなります。
子どもに強制をするのではなく「私は~と思う」というように自分を主語にすることで、子どもと少しずつ対話ができるようになっていきます。
私はこう思う、その理由は○○だから、あなたはどう思うとなり、それに対して、私はそう思わない、その理由は△△だからと、「私とあなた(ⅠとYou)」の対話が、理由と理由の交流という対話が成立するのである。
キレることを問題視しすぎる
「なぜキレる子どもに育つのか?」でも紹介した通り、子どもがカッとなるのは前頭前野部分の未発達が原因のため、感情がコントロールできないのは仕方がないことです。
「脳科学と教育」の研究の第一人者である株式会社日立製作所フェローの小泉氏は、子どもがキレるのは駄目だと決めつけるのはおかしいと述べています。
キレるのはダメと決めつける、その入口がそもそもおかしい。キレること自体ではなく、キレた結果、どういう行動をとるか、ということが問題なのです。
気が付いたら人を刺していたとか。その行動に問題があるのであって、キレる……カッと頭に血が上って激怒するのは自然な感情です。
私たち大人でも、頭に血が上りそうになる瞬間は皆無ではないはずです。
大人は脳の前頭葉が発達しているため抑えることができ、子どもは未発達故にそれを抑えられないという話なのです。
キレることを問題視し過ぎることは子どもの情緒の安定にいい影響を与えません。
他人に恐怖や危害を与えたなど、大きな問題がないのであれば見守っても差し支えありません。
キレる子どもの心は悲鳴を上げている
子どもがキレる原因は怒りを抑える前頭葉が未発達であることが原因です。
また自尊感情が低いと、怒鳴られたりキツく叱られたりした時にストレスが抑えきれず、キレるという形で反発してしまうこともあります。
子どもがキレること自体は決して悪いことではありません。
理不尽に厳しくしたり頭ごなしに叱ったりせず、まずは落ち着いて対話をすることを心がけましょう。
「私は~と思う、○○くんはどう思う?」というように、優位に立とうとするのではなく、子どもと対等に話そうとすることで自尊心が育ちます。
脳の発達のスピードは身体の成長同様に個人差があります。
慌てずに親子で試行錯誤しながらゆっくり進んでいきましょう。
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