「いい子症候群」という言葉を聞いたことはありますか?
言葉通り「いい子」ではあるのですが、自分の気持ちを抑えて親の前で理想的な「いい子」でいようとする子どものことを指します。
自分の子どもがいい子症候群なのかどうかをチェックするポイントは以下の3つ。
「いい子症候群」かも? チェックしたいポイント3つ
・保護者のかたの指示がないと不安なお子さま
・感情表現が乏しい、自己主張することが苦手なお子さま
・反抗期がなかったお子さま
いい子であることは社会規範を学ぶ上ではよいことですが、行き過ぎると子どもが心を閉ざしてしまう原因にもなります。
ずっと自分を押し殺していると主体性が育たず、自分で考える力が育たなくなるリスクもあります。
いい子症候群について理解することで、自分の子どもとの接し方を振り返ってみましょう。
このページの要点をざっくりいうと
いい子症候群とは、自分の気持ちを抑え親の前でいい子でいようとする子どものことで、自己主張が苦手、反抗期がない、親の指示がないと何もできない等の特徴があります。
いい子症候群のまま成長すると自尊心や主体性が育たず、指示待ちの人間になる恐れがあります。
いい子症候群を防ぐには、子どもの意見を聞く、子を一人の人間として尊重するなど、親の心がけがとても重要です。
子どもに理想を押し付けず、親自身も自分を愛しながらコミュニケーションをとっていきましょう。
いい子症候群に注意が必要な理由
「いい子」は手がかからない事が特徴ですので、他に手のかかる兄弟がいる場合などは「○○ちゃんはいい子だから大丈夫」というようについ放任してしまいがちです。
しかしいい子だからこそ注意しなくてはいけないこともあるのです。
文部科学省が毎年行っている「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」の平成30年度の結果によると、小中学校における不登校の原因として「『不安』の傾向がある」「『無気力』の傾向がある」二つの項目共に原因を「家庭に係る状況」として挙げているケースが一番多いことが分かっています。
③不登校の要因を「本人に係る要因」で見ると,
・「『不安』の傾向がある」では,「家庭に係る状況(31.3%)」、「いじめを除く友人関係をめぐる問題(30.6%)」が多い。
・「『無気力』の傾向がある」では,「家庭に係る状況(46.7%)」、「学業の不振(32.3%)」が多い。
もちろん不登校の原因が全ていい子症候群に起因しているわけではないのですが、「いい子でいよう」と親の顔をうかがう子どもは、成長すると心身の問題を抱えやすくなり、不登校や無気力などを起こす可能性があります。
いい子で居たいが為に自己を抑圧している状態は、親から見たら確かに「いい子」かもしれません。
しかし自己を抑えてまでよい子でいる事は果たして健全と言えるのでしょうか。
過剰にいい子であろうとすることは子ども自身の心を蝕んでいきます。
いい子症候群の子どもに起きやすい3つの危険
いい子症候群が子どもによってなぜ危険なのか、さらに詳しく見ていきましょう。
「自分を抑圧する」ということにより、以下の3つの危険に晒される恐れがあります。
主体性が持てなくなる
いい子症候群の子どもは親の期待に応えようとするあまり、自分の気持ちを後回しにします。
そのうち自分が何をしたいのか分からなくなり、相手にどう思われるかばかりを気にする子、言われたことしかできない子になっていきます。
自分の欲求を知り、思いのままに動くことは健康な成長の上では欠かせません。
近年はうつ病と病状が違う「非定型うつ病」の患者が増えてきていますが、非定型うつ病になる人は小さいころから「いい子」と言われてきた人が多いとされています。
他人からどう見られるかを気にし、つねに相手の言うことを尊重し従うため、小さいときから“いい子”と言われていた人が多いのも特徴です。根底に人の評価が気になってしょうがない、という不安があり、小さい頃から人前であがりやすいなど、対人恐怖症的な傾向も見られます
小さい頃は困らないかもしれませんが、大人になって接する相手が増えるとそのしわ寄せが一気に押し寄せるリスクがあります。
自尊心が育たない
自尊心とは自分を尊重する、敬う心のことです。
自尊心が高いと、他人に何かを言われても気にしない、周りの目を気にし過ぎないというメリットがあります。
また学校や職場で積極的に発言や行動ができますので、優れた人材として評価されやすい傾向があります。
自分に自信があるので、前向きに困難にも立ち向かうことができます。
関西女子短期大学の研究によると、「勤務状況(学校生活)がうまくいっている・非常にうまくいっている」と答えた人は自尊心が高かったという結果が出ています。
勤務状態や学校生活という集団行動の中では、自意識の問題が重要である。
自分自身を尊重する意識や幸福感が勤務状態や学校生活をうまくいっていると思わせるといえる。
自尊心は人間が幸せに生きるためにはとても大切な気持ちです。
しかしいい子症候群の子どもは自分の心に従って良しとされた経験が少ないため、自分の考えに自信が持てず、自分は尊重されるに値しないという固定概念が根付いてしまいます。
他人とうまくコミュニケーションが取れない
いい子症候群の子どもは、人間関係の土台とも言える親とのコミュニケーションが一方的であることが多いです。
親の言うことに素直に従うため、「私はこうしたい」と自分の気持ちを相手に伝えてお互いにすり合わせをしていく過程を学べず、他人とうまくコミュニケーションを取れなくなります。
自分の意見を主張できず、誰かの言うことを聞いているだけになるため、他人と対等な関係を築くことができません。
またいい子症候群の子の中には、家で親の言うことに従っている反動で外では反抗的になり、いじめの加担者になるなどの問題行為を引き起こす子もいます。
目上の人にだけ従い、それ以外の人の前ではいい加減な態度をとる子も中にはいます。
いずれにせよコミュニケーションを取る上で大きな障害になることに変わりはありません。
いい子症候群から脱却するために親ができること
自分の子どもがもしかしたらいい子症候群かも、と思ったらできるだけ早く改善を心がけましょう。
いい子症候群から脱却するためには親は何をすればいいのでしょう。
気持ちを言葉に出せるまで待つ
いい子症候群の子どもは自分から気持ちを表に出しません。
子どもが自分の意見や気持ちを言葉にできる環境を、親が意識して作ることが非常に重要です。
しかし今まで自分の意思を抑えてきた子どもにとって、気持ちを言葉に表す事は難しいことです。
千葉県で行われた調査では、言いたいことを我慢している子どもは「自分が好き」「大切にされている」と感じにくい傾向があるということが分かっています。
言いたいことをがまんすることが「よくある」と答えた子どもは「自分のことが好き」の比率が下がり、「大切にされている」といつも感じるという比率も少なくなる。
このことも、自分の意見が言えないことや聞いてもらえないことが子どもの自尊感情や自己肯定感という「成長の栄養源」に大きな影響となっていることを示している。
つまり既に自分の意見に自信が持てない状態だということですので、最初はなかなか意見を口に出せないかもしれません。
その態度にやきもきせず、親がじっくり待つ姿勢が大変重要です。
ひとりの人間として尊重する
子どもを知らず知らずのうちにいい子症候群にしている親は、子と親自身の境目が曖昧になっている場合があります。
「この子はこうだ」という親の思いこみが子どもの主体性を奪います。
例えば外食に行った先で食べたいものを聞くときに「○○ちゃんは~~が好きだからこれにしようか」等と好きなものを先回りして押し付けることはありませんか?
子どもを親の想定した型に当てはめると、子どもにとっての自分=親の考えというなり、子と親の境目が曖昧になっていきます。
このようなことが続くと、成人しても親離れができない子どもになり、親子関係に支障をきたす恐れがあります。
子どもを自分とは違う一人の人間として尊重し、子どもの気持ちにレールを引かないようにする心がけが大切です。
親自身が自分を愛してあげる
親自身が子どもを「いい子にしたい」という気持ちが強い場合、その気持ちが子どもにも伝わり、子どもをいい子症候群にする恐れがあります。
つまり子どもがいい子症候群の場合、親自身の心が子育てに対するプレッシャーで悲鳴をあげていることがあります。
親子・夫婦関係の専門家である臨床心理士の信田さよ子さんは、「いい子に育てること」の全てを親の責任と考える事はよくないと述べています。
規範を守るように育てる全責任が親にあると思わないことです。
子どもにいろいろに言ってもその通りにできないですよね。
それが全部親の責任と風に考えると、すごくプレッシャーになる。社会の側ももう少し寛容になるべき。
他の人の目を気にして「いい子に育てなくては」と考えたり、もしくは自分の理想の子に育てようと考えたりしてはいませんか?
子どものいい子症候群を防ぐには、親自身が自分を見つめ、自分を愛することも大きなカギとなるのです。
親子でいい子症候群から卒業しよう!
いい子症候群にならないようにするには、親自身が自分を見つめ、心がけや接し方を考えていくことが不可欠です。
まずは子どもの意見をじっくり聞き、子ども自身の意志を尊重するようにすること。
親の敷いたレールを歩いてきた子どもは、最初のうちは自分を表に出すことができず戸惑うかもしれませんが、それでもゆっくりと待って「自分で考える力」を芽生えさせましょう。
子どもが自分の意見を言うようになると、当然衝突することもあるでしょう。
しかしその衝突が子どもの主体性や自尊心を育てていくとともに、親子の健全なコミュニケーションを育むきっかけとなるのです。
親子で手をとりあって「いい子症候群」から卒業し、自分を見つけにいきましょう。
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