「感動体験」という言葉を聞いたことはありますか?
文字通り、感動して心が動いた体験のことをいいます。
言葉だけを聞くと「泊りがけのキャンプ」「スカイダイビング」など大掛かりなことをイメージする方も多いでしょう。
自然とのふれあいや家事のお手伝いなど、身近なことでも子どもにとって感動できる事柄はすべて「感動体験」になります。
感動体験は教育の場でも非常に重要視されています。
文部科学省が発行している文部科学白書においても、体験を積み重ねることで社会を生きぬくための能力が身につけられるということが書かれています。
社会で求められる仲間とのコミュニケーション能力や自立心、主体性、協調性、チャレンジ精神、責任感、創造力、異なる他者と協働する能力等を育むためには、様々な体験活動が不可欠です。
感動体験には具体的にどのような方法があるのか、そして感動体験によって得られる効果についても解説をしていきます。
このページの要点をざっくりいうと
感動して心が動かされる「感動体験」を通し、子どもは自己肯定感や自己効力感を高めることができます。
そして体験を通して人間関係が円滑になる、何事にも積極的に取り組めるようになる、知識を実践することで成績がよくなるなどの効果もあります。
感動体験を積ませるためには自然体験や生活体験、お手伝いなどが効果的です。
無理のない範囲で子どもに様々なことに取り組ませ、感動体験を積み重ねていきましょう。
感動体験で得られる力
子どもにとって感動体験がよいということはよく言われていますが、感動体験を通してどのような力を得ることができるのでしょう。
感動体験を通すことで得られる力は以下の2つ。
- 自己肯定感
- 自己効力感
自己肯定感
自己肯定感とはそのままの自分を肯定的に、ありのままに受け入れることができる能力のことです。
これだけを聞くと感動体験とあまり繋がりが無さそう、と感じる方もいるかもしれません。
子どもは感動体験を通し、自分の持っている力を実感できたり、未経験だったことを体験したりできます。
そうすることで自分の能力や自覚できなかった新しい一面を知る事ができ、「自分にはこんないい所があるんだ」と自己肯定感を高めることに繋げられるのです。
実際に愛知教育大学が中学生を対象に行った調査において、感動体験を得た子どもは自己肯定感を高められたという結果が出ています。
思春期における自己肯定感に関する研究の中で、自己肯定感を育てている要因として、生活体験や、グループ体験、親子関係に相関関係がみられたことを報告している。
我々が今回定義した感動体験には学校や家庭で経験する体験が多く、西山の言う生活体験・グループ体験・親子関係と類似することから、この結果は、いくつかの感動体験が学校適応力や家族機能を介して自己肯定感に影響する可能性を示唆している。
これはあくまでも中学生を対象にした結果ではありますが、もう少し年齢が低い子どもにも当てはまります。
自己肯定感が高まると、自分の長所と短所を理解できるようになり、ありのままを受け入れられる様になります。
自己効力感
自己効力感とは何らかの目標に対して「自分は達成する力がある」と考え、自分を信じる力のことを指します。
自己効力感が高いと、様々なことに対して「自分ならできる」とプラスな気持ちで行動に移せますが、逆に低いと「きっとうまくいかない」とマイナスに考え、新しいことに対するやる気を起こせません。
子どもを自主的な子に育てるには不可欠な能力であると言えます。
感動体験によって達成感を得ることにより、自分に自信を持てるようになり自己効力感が伸びていきます。
「最後までやり遂げた」という気持ちが重要ですので、ここでの達成感は優秀な成績でなくても問題ありません。
普段の生活の中で最後まで何かに取り組ませるということが重要になります。
生きる力を養う具体的な感動体験とは?
それでは自己肯定感や自己効力感を養うための「感動体験」とは具体的にどのような活動を指すのか、紹介をしていきましょう。
「感動体験」という言葉だけを見ると、大掛かりなことをやらせなくてはいけないのではないかと考えてしまいがちですが、実際はそうではありません。
文部科学省が発行している文部科学白書のデータによると、感動体験で得られる自己肯定感は自然体験や生活体験、お手伝いで高水準になっています。
自然体験や生活体験といった体験が豊富な子どもやお手伝いを多くしている子ども、生活習慣が身に付いている子どもほど、自己肯定感や道徳観・正義感が高い傾向が見られます。
このデータをもとに、小学生がどのような感動体験をするといいのかを解説していきます。
自然体験
海や川で泳いだこと、夜空いっぱいに輝く星を見ることなど、自然に関する体験がこの項目に当てはまります。
もちろん自然を体験させることを目的にキャンプをしたり、遠くの海や山に行ったりする必要はありません。
「自然体験教室」というような名称で、学校や地域などで自然に触れ合うための取組が行われていることがありますので、そのような行事があれば参加をしてみましょう。
自然が多い公園に行くだけでも感動体験は生まれます。
いつも行く公園でも少し時間帯を変えたり、一緒に遊ぶ友達を変えたりするだけでも子どもにとっては新しい発見があります。
例えばどんぐりや木の葉を拾ったり、アリの観察をしたり、虫を捕まえたりなど、大人にとって些細に思えることが子どもにとっての感動体験になります。
生活体験
ナイフや包丁で果物を剥く、タオルや雑巾を絞る、缶切りで缶を開けるなど、生活に関する様々な経験がこの項目に当てはまります。
生活体験は日常の様々な場面で生まれます。
子どもが「やってみたい」と興味を持ったことに対し、大人が支援を行うことで感動体験を深めることができます。
象印が行った調査によると「包丁でリンゴの皮がむける」「缶切りで缶詰を開けることができる」などの生活体験の経験がある子どもは、20年前に比べて大きく減少しているということが分かっています。
包丁でリンゴの皮がむけるかどうか聞いたところ、全体では、「できる」が10.1%。「できない」(22.0%)と「やらせたことがない」(68.0%)を合わせると、約9割の小学生ができないという結果になっています。
前回20年前の調査の63.7%(「できない」+「やらせたことがない」)から大きく増えています。
危ないことは大人がそばについていなくてはいけませんので、なかなか時間がとれない、という方も多いのではないかと思います。
普段の家事に差支えがない範囲で構いませんので、子どもが興味を持ったことに取り組ませてみましょう。
例えば「雑巾がけをやってみたい!」と子どもが言ったときに、雑巾の絞り方や拭き方を教えて一緒にやってみてください。
何気ないことに思えるかもしれませんが、子どもにとっては全てが初めてのことですので「雑巾はどうやって絞れるか」など、様々な発見をして感動体験に繋げられるのです。
お手伝い
お手伝いは子どもにとって新しいことができるだけでなく、親の役に立つことができますので、自己肯定感や自己効力感に大きな影響を与えます。
ただお手伝いなら何でもいいというわけではありません。
お手伝いにおける感動体験は、自主的に行ったことや、お手伝いが「家族や自分の生活と繋がっている」と感じたときに起こります。
例えば子どもがおつかいを一人でした場合、一人で完遂したという達成感、物を買うことで人の役に立ったという感覚が成功体験として子どもの心に残ります。
他にも皿洗いや片付けなど、子ども本人や家族から見てはっきりと成果が分かるもの、自分が家族の役に立ったと実感できるものに当てはまるお手伝いが感動体験に繋がりやすいです。
感動体験が子どもに与える3つの効果
感動体験は子どもの自己肯定感、自己効力感を高めるために非常に重要なのは今まで解説をした通りですが、感動体験のメリットはそれだけではありません。
文部科学省の新しい学習指導要領では、感動体験が学力向上や人間関係に繋がると紹介されています。
体験活動は「なぜ、どうしてこうなのだろう」「どうしたらいいのだろう」という「問いかけ」を通して、「こうなんだ」「こう考えたらいい」「こうしたらいい」という知識、技能、考え方へとつながり、「確かな学力」へと実を結ぶ。
この内容を踏まえながら、感動体験の以下の3つの効果について紹介をしていきます。
- 成績が良くなる
- 何事にも積極的に取り組める
- 人間関係を円滑にする
成績が良くなる
子どもにとって感動体験は初めて遭遇するものですので、問題を解決する際には「なぜ?」「どうして?」と考えながら、今まで学習してきた知識を総動員し、何か活用できることはないかと試行錯誤します。
この過程であらゆる知識が脳に定着しますので、学業にもよい影響を及ぼします。
先ほど引用をした文部科学省のパンフレットにも、子どもの学びの過程は以下のようだと述べられています。
体験(直観、感覚的認識)→概念化(思考・知性)→実践(行動化、活用・応用)
知識や技能や考える力といったものを現実の世界と結び付け、活用する際に、その方法として「体験的学習」が不可欠であり、もう一つ「問題解決的学習」を必要とする。
自ら実践してはじめて生きる力は身に付くからである。
頭の中であれこれ考えをめぐらすだけでは、実践力、知の活用力を学び取ることはできない。体を使って、実際にやってみなければならない。
知識は考えるだけでなく、活用することで身についていくものですので、学力の向上には感動体験が不可欠なのです。
何事にも積極的に取り組める
感動体験は人間にとって快の感情をもたらすものです。
人間が感動すると、脳内では達成感や快感、感動ややる気をもたらすホルモンであるドーパミンが分泌されます。
毎日の生活で感動することが起きていないと脳内のドーパミンが減り、やる気が損なわれていきます。
逆に感動体験を味わうとドーパミンが放出され、それが次のやる気に繋がっていきます。
成功する人は、信念を胸に、未知なる目標を持ち、ワクワクドキドキしながら、さらなる高みを目指し、達成したら脳内から報酬としてドーパミンが出る。そうした好循環を築いているのです。
これはもちろん子どもにも当てはまることです。
子どもが感動体験で心を動かされると、何かにチャレンジすることは楽しいことだという意識が芽生えます。
次に新しい体験に遭遇した時、多少の困難があってもその先の感動を求めて積極的に取り組んで行けるようになります。
人間関係を円滑にする
感動体験によって心が大きく動かされると物事へのやる気が上がり、人間性が豊かになります。
また感動体験は一人では体験できないものが多いです。
先ほど紹介をした生活体験、お手伝いはいずれも誰かの関わりや手助けがないとできないものです。
自然体験は一人でもできますが、友達と一緒に活動をすることで自分一人では気づけない視点に気づく可能性が高くなります。
つまり感動体験は人間関係の構築でもあります。
様々な体験の中で相手に対する尊重の気持ちを抱き、その場に応じた対応の仕方を判断することができるようになるので、人間関係を円滑に保つことができるようになっていきます。
感動体験を積み上げることで子どもは大きく成長する
子どもは社会のつながりの中で感動体験を積み重ね、生きる力を獲得していきます。
感動体験は生まれて初めて出会うことばかりですので、その過程で困難な状況に直面したり、諦めたくなってしまうこともあるかもしれません。
大人は子どもの体験を代わりに行うことはできませんし、過度な手伝いは子どもの感動を損なう可能性もありますので、子どもの感動体験を見守り、励まして一緒に歩いていくことが大切です。
また毎日の些細な日常の中で、子どもが興味を持ったことは無理のない範囲で体験させてあげましょう。
何気ない日常の感動体験の積み重ねが、のちに子どもにとって大きな力になっていくのです。
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