空間認識能力とは、物体を多角的に見て、位置関係や形状、方向などを素早く正確に認識する能力のことです。
紙に書かれた見取図を見て立体をイメージする時や、地図を理解する時などに利用されます。
勉強とは関係の薄い力に思えるかもしれませんが、実際算数では高学年から立体の問題が出てくるようになり、そこで空間認識能力が問われます。
理科教育学研究の論文によると、算数への好感度は空間認識能力に影響を与えるということが明らかになっていて、理系科目と密接な関係があることが分かります。
「理科学習への好感度」と「天文学習への好感度」が「算数学習への好感度」に影響を与え、「算数学習への好感度」が直接的に空間認識能力に影響を与えていることが示唆された。
空間認識能力が低いと、それが原因で算数や理科が苦手になる恐れがあります。
逆に空間認識能力を鍛えると、物事の本質を捉える力を磨けますので、仕事にも役立てることができ、将来の選択肢を増やせます。
今回は子どもにとっての勉強を楽しく、人生を豊かにしていくために、子どもの空間認識能力の鍛え方を紹介します。
このページの要点をざっくりいうと
子どもに空間認識能力をつけてあげたい!
パズルやアスレチックが有効だよ!
物体の位置関係や形状などを瞬時に把握する力を空間認識能力と呼び、これが高いと理数系科目が得意になる、物事をじっくり考えられるなどのメリットがあります。
人間関係がうまくいき、理数系が得意になることで職業選択の幅が広がりますので、将来性が高くなります。
空間認識能力を鍛えるには、具体的な指示を出す、アスレチックなどで体を動かす遊びをする、パズル等で遊ぶなどが効果的です。
しかし能力には個人差・性差があり、女子より男子のほうが空間認識能力が高い傾向があります。
子どもが興味を持ったところから、無理なく鍛えていくことをお勧めします。
空間認識能力を鍛える3つのメリット
空間認識能力を鍛えることで
どんなメリットがあるの?
空間認識能力が鍛えられると理系科目に
強くなると言われているんだ
空間認識能力を鍛えると、具体的にどのようなメリットがあるのかを紹介します。
主なメリットは以下の3つです。
理数系の科目に強くなる
空間認識能力は理科にも算数にも
大きく関係するよ!
将来的なメリットも多そう!
空間認識能力が高いと、平面図から立体をイメージし、それを頭の中で3D映像のように回転することができます。
紙に描かれた立体の全体像や辺・面の数を簡単に捉えることができますので、算数の立体図形分野に強くなります。
また空間認識能力は理科にも大きく関係しています。
例えば天体や気象、地層などの地学分野は空間を把握する力、認識する力が不可欠です。
地学は、固体地球、気象、天文の三分野で構成されており、身近な地球から宇宙へと視野を広げていくような指導を行っている。
いずれの分野を指導する際にも、生徒自身に各事象の空間把握・空間認識をできるようにすること、すなわち生徒の意識の中に立体的なイメージがつくり上げられることが必要である。
これ以外にも電磁石の性質、ふりこの動きなど、理科において立体をイメージしなくてはいけない機会は非常に多いため、空間認識能力の高さは理科の成績に直結します。
学問の分野には優劣はありませんが、文系よりも理系科目に強いほうが将来的なメリットは大きいです。
慶應義塾大学パネル調査共同研究拠点にて設計された「日本家計パネル調査」のデータでは、文系出身よりも理系出身者のほうが平均所得が高いことが判明しています。
調査の結果、男性の場合、文系出身者の平均値が559.02万円(平均年齢46歳)で、理系出身者は600.99万円(平均年齢46歳)となっており、理系出身者の方が高くなっていることが示された。
理系が文系より優れているという訳ではありませんが、収入金額を基準に考えた場合、理系に強い事はメリットであると言えるのです。
高学年以降のつまずきが減る
「9歳の壁」という言葉を聞いたことがある方も多いと思います。
生活や学習、友人関係などの「壁」にぶつかりやすいために付けられた名称で、メディアによっては「10歳の壁」と呼ぶことも。
実際に9歳、10歳にあたる小学4年生頃は学習内容も難しくなり、学力差が表れ始める頃です。
小学4年生の理科では電池のはたらきや月や星の動きなど、身の周りの空間を把握する力を問われる単元を中心に学習します。
小学4年生は、理科だけでなく算数も空間認識能力が問われる単元が多いことが特徴。
算数では様々な四角形や垂直・平行の概念、図形の面積や立体の展開図、見取り図などを学びます。
立体における面や辺の位置関係などは、空間認識能力が低いとつまずいてしまう単元です。
また、理科の好き嫌いが決まるのもこの時期が多い事が分かっています。
小学生だけでなく高校生にも行い年代比較もした。
その結果,理科に興味を持つ年齢は9歳前後(小学校中学年)が多いことが分かった。
そして、その時期に学力が追いつかず理科を嫌いになる子どもは,生涯嫌いのままでいるという事実も浮き彫りになった。
一度嫌いになったものを好きになるのは難しいものです。
しかし早い頃から空間認識能力を鍛えることでこれらの単元でつまずかず、算数や理科の面白さに気づくことができます。
物事をじっくり考えられるようになる
こんなところにも影響するんだ!
物事を他方面から考えられるようになるのは、
生活する上でもとても大事だね
空間認識能力が優れている人は物事を様々な方向から考えられます。
一方的な知識だけでは勉強はできるようになりません。
首都圏の中学入試においても、知識ではなく思考力・判断力・表現力を問う「適性検査型」の問題が増加傾向にあります。
合教科型・総合型の問題で思考力・判断力・表現力を中心に問う、いわゆる「適性検査型」の試験を実施する学校もさらに広がりを見せ、2014年度には38校だった実施校が、2019年度には147校までに増加しています。
「私立中向けの中学受験専門の対策をしなくても受験できる」とうたわれ、近年の中学入試ブームのきっかけのひとつにもなっています。
空間認識能力に優れている子どもは一つの物事を様々な面から捉え、じっくりと考える力があるため、受験・テストでも有利です。
空間認識能力は勉強だけでなく、日常生活でも生かすことができます。
自分のことだけでなく周囲の世界のことを考えられるようになるため、視野が広がり好奇心を養えます。
空間認識能力のメリットは、地図の読み取りやスポーツなどの物理的な事が注目されやすいですが、予定や計画を立てるにも空間認識能力が不可欠です。
空間認識能力が高いと複数のスケジュール、締め切りなどを管理できるため、計画を立てて行動ができるようになります。
空間認識能力を鍛えると将来性がUPする!
年収にも繋がるの?!
すごく大事じゃない!
だから言ってるじゃん…
ぜひ将来のためにも鍛えておこう
空間認識能力のメリットは、スポーツや地図の読み取りだけでなく、テストや受験、将来の年収にも繋がっています。
空間認識能力を鍛えることは子どもの将来性をUPすることにも繋がります。
具体的な理由について、さらに詳しく紹介していきます。
人間関係をうまく築けるようになる
人間関係に空間認識能力が必要になるとは…
想像力が鍛えられるからね
空間認識能力と人間関係は関係がなさそうだと考える方もいるかもしれません。
しかし空間認識能力が高いということは、物事を様々な面から見たり、イメージしたりできる力を持っているということ。
空間認識の「空間」は物理的に限った話ではないのです。
人間関係においても多角的に見ることができ、自分以外の人の気持ちを考えられます。
また、自分と考えが合わない人や自分に反対する人の意見についても柔軟に考える事ができるため、人との関係を円滑に進められるようになり、視野も広がります。
物事の全体像から見た自分の立場、考えなども把握できます。
相手に自分のことを的確に伝えたり、相手が何を求めているかも把握できるため、コミュニケーションだけでなく仕事もスムーズに進められるようになります。
将来の選択肢が増える
「空間認識能力を鍛える3つのメリット」でもお伝えした通り、空間認識能力が高い子は理数系科目に強くなります。
理数系科目ができるとテストでも点数が取りやすく、実際に理系のほうが文系よりも平均点が高い傾向があります。
河合塾の分析によると、センター試験の7科目総合型平均点は文系よりも理系のほうが高い事が分かっています。
点数が高ければその分受験先の選択肢が広いということです。
また理系は就活にも有利であることも分かっています。
内定率を、文理別にみると理系は90.8%(-3.5ポイント)と前年同月同様に推移しています。
文系は、76.9%(-12.9ポイント)と苦戦してる様子が伺えます。
理系は採用選考が総じて早く進んでいたことに加え、産業構造の変化に伴う人材需要としても底堅い状況です。
就活がスムーズに進むということは、志望した会社の選考がうまく進んでいるということ。
もちろん理系であれば必ず文系よりも有利になる訳ではありませんが、子どもにはできるだけ有利な道へ進んでほしいものです。
空間認識能力を鍛える3つの方法
そんな簡単に鍛えられるものなの?
パズルやブロックが定番だけど
日常生活で鍛える方法もあるよ!
空間認識能力は個人差がありますが、鍛えることができます。
子どもの空間認識能力を鍛えるおすすめの方法3つを紹介します。
具体的な指示を出してお手伝いをしてもらう
これ、それ、などの言葉は使いがちだけど
実はあんまりよくないんだ
うわ~!気をつけよう!
子どもにちょっとしたお手伝いをお願いするとき、つい「それとって」「これを置いて」などの曖昧な表現をつい使ってしまいがちです。
「これ」「それ」などの指示語を使っての会話は、子どもにとっては確かに分かりやすいです。
しかし分かりやすいということは頭を使わないということでもあります。
物の場所を伝える時に「右から二番目の○○をとって」「棚の上から三段目にある○○を出して」というように、具体的な場所や位置を伝えるようにしてみましょう。
子どもはある程度の空間を意識しながら物を探すようになります。
空間のどこに必要なものがあるのか、考えて探し出すことで空間認知能力を養うことができます。
身体を動かして遊ぶ
昔は自然の多いところで遊ぶことにより、意識しなくても空間認識能力を鍛えることができました。
しかし近年では自然の中で遊ぶ機会が少なく、遊びを通して空間認識能力を鍛える機会が減っていますので、大きな公園に設置されているアスレチック、鬼ごっこなどで身体を動かしましょう。
アスレチックのように遊具の性質や動きをイメージしたり、距離感を想像したりする遊びは空間認識能力を養えます。
鬼ごっこは「鬼はどこにいるか」「どの方向に逃げるべきか」などを考えながら遊ぶので、自分がどこにいるか把握する能力を高められます。
外で遊ぶのが難しい場合はトランポリンもお勧め。
上下運動をしたり、空中で回転することにより、普段の生活では実感できない立体的な空間認知能力を鍛えられます。
ブロックやパズルをする
パズルなら一緒に遊べそう!
ゲームの種類はたくさんあるから
子どもにあったものを探そう!
パズルやブロック、ボードゲームで頻繁に遊んだ子どもは、空間認識能力が高くなると言われています。
積み木やブロックなど組み立てて形を作って遊ぶおもちゃ、パズルは空間認識能力を育てます。
自分の好きな通りに作るだけでなく、説明書などを見て手順通りに組み立てることも空間認識能力を養うのに役立ちます。
気軽に遊ぶことができる3Dゲーム、パズルアプリなどもおすすめです。
空間認識能力を育てるツールは、実物の立体でなく、3D画像でも十分な効果があります。
情報処理学会は、AR(Augmented Reality、拡張現実)を利用したブロック学習ツールを使い、空間認識能力の向上に効果があるかどうかの実験をしています。
正答率の結果を見ると、AR学習を行った場合のみに学習前後で向上していることが分かる。
(略)よってAR学習が認識精度に影響していることが分かるため、本ツールを用いたAR学習には認識精度を向上させる効果があると言える。
カメラで撮影した立方体を映像にしたARアプリの学習により、空間認識能力向上効果が得られています。
実物のブロックやパズルを購入する前に、無料のアプリから手軽に始めてみるのもよいですね。
子どもの個性を尊重しながら空間認識能力を鍛える
空間認識能力がここまでいろいろ
影響するなんて思わなかったなぁ
子どもによって得意・不得意はあるから
無理のない範囲でやっていこう!
空間認識能力が高いと、理系科目が得意になる、物事をじっくり考えられるようになるなどのメリットがあります。
能力には個人差があり、パズルや遊びを通して鍛えることが可能ですが、得意・不得意があります。
空間認識能力には性差もあり、女子より男子のほうが優れている傾向があります。
そのため子どもによっては難しい、と感じることもあるかもしれません。
子どもに能力を鍛えさせたい場合は、無理強いをしないように、できる範囲から、本人が興味を持ったところから始めていきましょう。
コメント